笠原乾吉著 複素解析(ちくま学芸文庫)を読んで

リーマン面

 複素関数論の本「笠原乾吉著 複素解析ちくま学芸文庫)」を紹介します。とは言え、第4章以降は不勉強なため(私には少し難しいので,これから,じっくりと理解する予定です.)節のタイトルと定理を列記することに終始してあります。今後、膨らませて行く予定です。この本を読まれる方々の、お役に立てれば幸いに存じます。
2022年7月

 本書は、はじめて複素解析複素関数論)を学ばれる方のための入門書です。この本の目的は複素解析とは何かを追求するところにあります。微分積分学の一般論では、関数一般に関する数多くの定理が述べられていますが、その例題として登場する関数は実は解析関数であるから、その関数本来の性質を明らかにするためには複素解析関数として考察することが重要になります。  最初に解析関数とは何かを単刀直入に述べてはいますが、特殊関数の具体的な性質を調べる過程において導かれた一般論であるという雰囲気も伝えたい。  解析性という非常に強いように思える要請が、自然なものであることも理解できると思います。

第1章 正則関数とは何か

 この章では、複素微分可能であるための五つの必要十分条件について解説してあります。

  1. コーシー・リーマンの方程式 定理 1.2.3 P.24
  2. コーシーの積分定理     定理 1.3.2 (ⅰ) P.29
  3. コーシーの積分公式     定理 1.3.2 (ⅱ) P.29
  4. 原始関数の局所的存在    定理 1.4.4 P.32
  5. 級数展開可能性      定理 1.5.1 P.33

 いずれの定理も,複素関数論の初め学ぶ重要な定理です. さらに,連続関数が正則ならば等角写像でもある.(定理 1.6.1(メンショフの定理) P.38) (擬)等角写像偏微分方程式論や流体力学に応用をもち,さらにリーマン面のモジュラスの理論では最も中心的な位置をしめている.  最後の節では,正則関数と調和関数との関係について触れています.

第2章 正則関数の性質

 最も基本的な正則関数の定理を四つ説明されています.

  1. 一致の定理             定理 2.1.1 P.41
  2. 最大値の原理            定理 2.2.1 P.45
  3. 正則関数列
    1. ワイエルストラスの二重級数定理  定理 2.3.1 P.47
    2. 微分記号と積分記号の交換     系 2.3.2 P.48
  4. 写像としての局所的性質       定理 2.4.1 P.50

 「一致の定理」により実解析関数が正則関数に延長されることを示し,指数関数,三角関数を導入します.  また,微分記号と積分記号の交換の条件も応用上重要な条件の一つです.

 ある点を原点に適当に座標変換することで,局所的に正則関数は写像として w = z^{ n } と同じ振る舞いをすることを示します..

第3章 孤立特異点

 基礎的な孤立特異点に関する事項が述べられています.はじめに孤立特異点の周りでローラン級数に展開します このローラン級数の形により、孤立特異点は除去可能な孤立特異点、極、真性特異点に分かれます。

  1. ローラン級数         定理 3.1.1 P.54
  2. リーマンの除去可能特異点定理 定理 3.2.3 (ⅰ) P.57
    1. ワイエルストラスの定理   定理 3.2.3 (ⅲ) P.57
  3. 留数定理           定理 3.3.1 P.59
  4. 偏角の原理          定理 3.4.1 P.65
  5. ルーシェの定理        定理 3.5.1 P.68
    1. フルヴィッツの定理     定理 3.5.2 P.69
    2. 代数学の基本定理      定理 3.5.4 P.69

第4章 多価関数とリーマン面(1次元複素多様体

 対数関数を多価関数として理解するために、複素平面リーマン面複素多様体)に拡張します。多様体を理解することは現代数学への第一歩です。

  1. 無限遠点、リーマン面
  2. 有理形関数
  3. 対数関数 log z
  4. 多価関数のリーマン領域
  5. リーマン面(1次元複素多様体

第5章 正則関数・有理形関数は存在するか

 ある条件を満たす関数が存在すれば、何々が成り立つという形の定理が関数論では沢山あります。この章では、与えられた条件を満たす関数を作ることを問題にします。

  1. リュービルの定理             定理 5.1.1 P.93
  2. コーシーの評価式             補題 5.1.2 P.93
  3. ミッタグ・レフラーの定理         定理 5.3.1 P.97
  4. ルンゲの定理               定理 5.4.3 P.102
  5. クザンの加法的問題の解          定理 5.5.1 P.105
  6. コホモロジーの消滅            定理 5.5.2 P.105
  7. 非同次のコーシー・リーマン偏微分方程式  定理 5.5.3 P.106
  8. リーマンの写像定理            定理 5.7.1 P.112

第6章 一次変換

 何かの問題を解く場合に,非常に特別な関数(一次変換)にして解き易い形に写すことは,よくあることです. また一次変換の重要性については 6.7 節を参照してください.

  1. 一次変換
  2. 非調和比
  3. 円円対応
  4. 称点保存
  5. 単位円、上半平面の自己等角写像
  6. シュヴァルツの補題写像の一意性
  7. 一次変換の重要性

第7章 ボアンカレ計量

 単位円上に計量(ボアンカレ計量)を入れ、その計量から距離を定義する.ただし双曲型領域に正則写像が距離を縮小する写像となるように定義する.それを用いて「ピカールの大定理」を証明する.また,正規族の節で有名なアスコリ・アルツェラの定理(定理 7.5.3 P.163)に紹介します. 6節の円環領域において,解析的自己同形群,複素多様体のモジュラスについて最も簡単な実例を提供してあります.

  1. ベルグマン計量
  2. 単位円の非ユークリッド幾何学
  3. 単位円を普遍被覆面とする領域
  4. ピカールの大定理
  5. 正規族
  6. 円環領域

第8章 楕円関数・モジュラー関数

 周期関数の性質を基本として,基本周期 ω, ω' をもつ二重周期関数の全体の集合を調べます.複素平面から二つの点を取り除いた領域が双曲型であることを示し,ピカールの大定理の証明が完結する.モジュラー関数と楕円関数との関係は章末に注が,付いています.

  1. 周期関数
  2. 2重周期関数(楕円関数)
  3. ワイエルストラスのベー関数
  4. 楕円関数の加法定理
  5. モジュラー関数 J(τ)
  6. J(τ)のフーリエ級数展開
  7. 基本領域
  8. モジュラー関数λ(τ)
  9. 2重周期関数をなぜ楕円関数というか

付録 0 偏微分法から

  1. 偏微分はつまらない
  2. 微分可能
  3. C1, 偏微分復権
  4. 陰関数定理

付録Ⅰ 複素平面C
付録Ⅱ 曲線、線積分、グリーン・ストークスの定理 付録Ⅲ 平面のベクトル解析 付録Ⅳ 1の分解と,グリーン・ストークスの定理の証明 付録Ⅴ 級数の和,一様収束,整級数,無限積 付録Ⅵ 正則関数とベクトル解析 付録Ⅶ 解析接続,1価性定理,コーシーの積分定理