アルキメデスの大戦とアルキメデスの公理から平均値の定理まで
題名に魅せられて、三田紀房さんによる日本の漫画、およびそれを原作とした実写版映画「アルキメデスの大戦」を観ました。軍艦、航空母艦など旧日本海軍の開発・製造について、当時の技術戦略と人間模様をテーマとしてフィクション作品でした。
微分積分の基幹となる概念の一つである「アルキメデスの公理」とは、大雑把にいえばサッカーボールを100倍とか1000倍とか、何倍(正の整数倍)かすれば必ず地球よりも大きくなるという考え方で、無限大・無限小を論じる時に基幹となる概念です。
この「アルキメデスの公理」から「平均値の定理」に至るまでの理論は、数学は勿論のこと物理学、工学などにおいても核となる概念の一つです。
映画のあらすじと感想を書いた後、アルキメデスの公理から平均値の定理まで簡単に解説していきます。
1.映画「アルキメデスの大戦」のあらすじと感想
1.1 あらすじ
昭和8年、日本は激動の世界の中で大きく揺れていた。国際連盟を脱退した日本は世界の中で孤立を深めて行った。巨大戦艦を建造する計画に大きな期待を寄せていた日本帝国海軍上層部に対して、待ったをかけたのが海軍少将・山本五十六だった。彼は近い将来、空軍による空中戦が主体になることを予想して航空母艦を作る様、代替案を提案していた。しかし、海軍大臣を中心とした上層部は世界に誇示する大きさを誇るため、巨大戦艦の建造を支持していた。戦艦建造計画の裏に隠された不正を暴くため、山本は天才数学者・櫂直を海軍に招き入れた。戦艦に使われる鉄の総量と戦艦の建造にかかる費用とが相関関係にあることを発見した櫂は、新造艦最終会議で相関の関数式を示し建造にかかる莫大な費用を見事に算出した。だが...
1.2 感想
学生時代に解析学(微分積分から関数解析まで)を学んだ私は、「アルキメデス」という言葉に魅せられてこの映画を観ました。戦艦大和のディテールな描写を評論では書いてありますが、私はそれとは違う点に印象を持ちました。巨大戦艦の設計を担当した造船中将・平山忠道が櫂を説得するシーンの中で、負け方を知らない日本人が戦争に負けた時、絶望感の中から目覚めさせるために巨大戦艦「大和」の沈没は意義があるのだと諭すシーンがあります。私はこのシーンが印象的でした。勝手な想像ですが、ここに作者の意図があるのではないかと思いました。
2.アルキメデスの公理とは
アルキメデスの公理とは、正の実数 a, b に対して
を満たす自然数 N が存在するという公理です.この公理から
が成り立つことを導けます。さらに、実数の完備性を仮定すれば上限定理
「上に有界な集合には上限が存在する」
を示すことができます。逆に、このアルキメデスの公理は上限定理を用いて証明します。すなわち
・上限定理
・実数の完備性とアルキメデスの公理
は同値な命題であることがわかります。
3.ボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理
数列の部分列の定義から始めると、数列の部分列とは数列の中から無限個の項を取り出し、順番を保ったまま並べた数列を部分列といいます。正確に定義すると、数列と自然数から自然数への単調増加写像との合成写像を部分列といいます。
ボルツァーノ・ワイエルシュトラスの(Bolzano - Weierstrass)定理は
「有界な数列は収束する部分列を持つ.」
という定理です。
この定理の証明は、数列は有界だから数列全体を実数の集合と考えたとき上限定理により、下限と上限が存在するから下限から上限までの区間を考えます。その区間を二分の一にし、(少なくとも)無限個の数列がある方の区間を新しい区間とします。新しい区間を再度二分の一にし、無限個の数列ある方の区間を新しい区間とします。この操作を繰り返し区間の列を作れば、各々の区間の左端は上に有界な単調増加数列となり、右端は下に有界な単調減少数列となります。かつ、区間の幅は限りなく0に近づきます。すなわち、区間の列は、ある点に収束します。したがって各々の区間の中から、順番を保ちながら一つずつ抽出し部分列を作れば収束する部分列になります。
4.最大値最小値の定理
最大値最小値の定理は
「関数 が閉区間 ] で連続であるとき, の ] における最大値と最小値が存在する.」
という定理です。
証明は二つのステップに分かれます。第一段として連続関数の有界性を示します。有界ならば「上限定理」により上限値と下限値が存在するから、第二段として、その上限値と下限値が最大値と最小値になることを証明します。第一段の有界性は、有界ではないと仮定して矛盾を導きます。その過程で使用するのが、ボルツァノ–ヴァイヤシュトラスの定理です。
5.平均値の定理
平均値の定理は
関数 は閉区間 ] で連続で,開区間 で微分可能であるとする.このとき
を満たす が存在する.
という定理です。
任意の区間で連続でかつ微分可能な実数値関数の二つの点の平均変化率と一致する微分係数をもつ点が、二つの点の間に少なくとも一つ存在するという定理です。この定理の補助定理でもある「ロルの定理」は、連続関数が最大値(または最小値)をとる点で微分係数が 0 になることを示すことにより証明します。
「平均値の定理」は微分積分学の基本公式、全微分、コーシー・リーマンの関係式など解析学の至る所で登場する重要な定理です.
まとめ:
映画の中で登場した戦艦大和の二十分の一の模型は、アルキメデスの公理を連想させるものではないかと、勝手に想像しています。学部に入った初学年の冬は、ちょうど偏微分から連鎖微分のあたりを学んでいたことを思い出しています。